夫婦

 先週の木曜日の話。その日はその後にレンタル屋にCDを返しに行かなければならなかったのだが、多少雨が降っていたり、バイクの件で気分が滅入っていたりして、12時までに返せばいいやなんて思って夜遅く行く事にしたのだが・・・。何時間か後、台所のすりガラスから見やる外の風景、というか黒い色しか見えないが、その黒に何やら動く白い模様が加わっていた。もしやと思いドアを開けて外を見たらば、なんと大きな雪のかたまりが天から地へと次々と落下していた。レンタル屋まではバイクで10分弱の距離、歩けば20〜30分はかかってしまう。なんという不運であろうか。落ちていた気分にさらに拍車をかけるこの不運にすっかり打ちひしがれてしまった。雪がやむ事をひたすら念じて待ったが、23:00になっても雪の勢いは衰える事を知らず、深々深々と降り続けていた。仕方が無いので一人でとぼとぼと歩いて行こうと思った。この雪の中を歩くのに知子を誘えはしない。しかも少しケンカ気味だったし。でも知子も一緒に歩いて行くというので、二人でとぼとぼと歩いて行く事になった・・・・。
 しかし、外に出るとどうだろう。家の中からはあれほど忌まわしく思えた雪の世界が、実際にその中に入り込むと意味合いをすっかり変えていた。繰り返される現実の単なる通過する為だけの通り道を白い色が鮮やかに彩り、意味を変えられた道は歩行者天国プロムナード赤じゅうたん東京ミレナリオの如く、一歩一歩が重くそこに居る事自体が意味のあるものとなっていた。空から落ちる雪を街灯が照らし影が生まれる。その影の動きを平面的に見やると、なんやら宮崎アニメ調の黒い小さい物体がちょこちょこと動くさまを彷彿とさせる面白さがあるのだ。それは知子が言い出した事で、そんな事は自分は25年生きてきて全く気付かなかった事であった。そんな中を行って帰って来て、時間はさすがにかかったが、単なる移動時間に非ず意味のある濃密な時間を過ごせたと感じた。マイナスの事をプラスの事へと、己の意識で転換出来る事、そういう事は素晴らしい。それは今回は自分の力では無く知子によってもたらされたが、次の機会にはきっと逆になってやろうと思った。どっちが落ちてもどちらかが支えて助け合っていければ、そしてマイナスをプラスに転換出来れば、世の中で怖い事など何もあるまい。それこそが男女ペアたる夫婦の真髄ではあるまいか。人類の多くが大人になれば男女ペアになって生きて来た意味というものが、こうして時折なんとなく解る出来事がいくつかあります。