わしはうまくくるまれているかな?

カフカ傑作短篇集 (福武文庫―海外文学シリーズ)

カフカ傑作短篇集 (福武文庫―海外文学シリーズ)







外国文学というもの、言語を解しない限りは、訳文を読むしかないわけで、
そうなると、訳者の力というものが非常に重要な事は今更いうまでもない。
日本語のセンス、それを読みたい。
そう考えると、このカフカ傑作短篇集という本は非常に面白い。
"わしはうまくくるまれているかな?"ときてる。
そして、"わしはまだくるまれはせん!"、である。
"パジャマにまでポケットをつけている!"、なのである。


訳者である長谷川四郎氏が類稀なる見事な言語感覚の持ち主である事は、
巻末に紹介されている別仕事、
東ドイツの詩人ボブロウスキの「画家シャガールの故郷」という一篇の訳で伺い知る事が出来る。
実際には伺い知るどころではなく、圧倒される。
なんだかよくわからないが、言葉の力というものを感じ、
なんだかよくわからないが、感動させられる。
まるで、音楽のようだ。
以下、その詩。


今も家々をめぐって
森林のかわいた匂い
ツルコケモモや蘚苔類
雲は夕ぐれ
ヴィテブスクのあたりに沈みながら
みずからの闇で鳴りひびいて


中にこもるまばらな笑い
先祖のじいさんが屋根の上から
婚礼の日をのぞいていた時


ぼくらは夢の中にぶらさがって
だが親父たちの故郷の星座とりまいていた
あれは頼りがいのあるものだった
アゴヒゲはやして天使のようで
ふるえる 小麦畑のツバサつけて


近づいてくるもの そのさきぶれ
それは燃えている角笛の音
暗くなると町は泳ぐ
むらがる雲の中を
赤く



こんな言々を、頭の中に持ち歩けるものなら、
生きる上での一つの希望ってものだ。