安部公房 - 箱男

箱男 (新潮文庫)

箱男 (新潮文庫)







まともに受け止めれば、実に難解な構成ではあるが、
この手の脈絡の無さの匂いをどこかで嗅いだ事はなかろうか?


「書く事に固執してしまう」のは、自分が正にそうだ。
書かなければ、落ち着かない。事態を把握出来ない。
今こうして書いている事だってそうだ。
謎だらけのこの本から得たものを、すっかり忘れてしまうだろうが、
匂いのようなものくらいは残しておきたいという願望。


全ては手記。


小説のプロットを練るような構想、妄想、
独り言と、他者との架空のコミュニケーション。
過去の体験や夢のはなし。
願望、情熱、執着のような、自らの内面の衝動と、
諦めに慣れてしまった故の、自分へのあざけりや肩透かし。
自らを客観的に位置づけて行く作業。
それが手記。


この作品で言うノートは、そういうものだろうよ。
事実は、特に問題とはならない。
事実というものは、当人にとっては全てが明らかであろうが、
他者からしてみれば、謎は謎のままだ。
他人の事は、永遠に解らない。
そんなふうな他人からしてみりゃあいまいな事実と、しかしあがく当人。
箱男という概念をテーマに、そういった構成で組まれた物語。


箱男などという、そんな荒唐無稽な存在なんて、ありえない、
と誰もが最初は思っただろうが、
絶妙で巧妙な安部公房マジックにより、
だんだんと、そんなのもアリかも・・と、
そして、居るだろう・・居るに違いない!
と気持ちが変わって行く所から、この小説はスタートする。
しかし最初のありえないという気持ちがすっかり無くなって来た丁度その辺り、
なんとも絶妙なタイミングで、物語は不穏な展開を見せ始める。
そこで、やはり箱男などというものはありえない、という気持ちに戻れるか、
という所が一つのターニングポイントなのではないだろうか・・?


しかし、おそらく解釈は様々。
解釈というものに個性が出る、
そんな小説ってのもあるんですねと、感心と驚愕。
やっぱ安部公房先生は偉人中の偉人だわ。