LOWPOWER式(逆)イメージ戦略

 こないだオークションでEWI3020mという機材を入手しました。ウォッチリストでチェックしてたら、終了間際になってもいまいち価格が上がって無かったので、これからフロに入るって時に駄目元で適当に入札したら落札しちゃいました。価格は3Uラックケース付きで2万5000円也。知らない人にはサッパリな話をしますと、アナログ音源であるVCOであり(かつ2VCO)、かつMIDI制御出来る上に、その制御方法も多彩かつ豊富、かつモジュレーションの変調元と変調先が色々設定可能という機材が、3Uラックケースもついてこの値段で買えるってのは、普通に考えると不思議な事なんです。これは何かって言うと、イメージの問題なのです。


ewi3020m
EWI3020m


 そのカラクリを説明しますと、EWI3020mのEWIとは、エレクトリックウインドインストゥルメントのこと。日本語にすると「電子管楽器」となります。すなわち管楽器の電子版です。電子になると何がどうなるかって言うと、これが吹く方の機器と実際に音を鳴らす方の機器とに分かれます。つまり吹く方の機器はコントローラーであり、音を鳴らす方の機器が楽器としては本体となります。で、このEWI3020mはその音を鳴らす方の機器なのです。通称をウインドシンセサイザーと言います。


EWI3020
EWI3020


 ここでまず一つのイメージが発生します。「吹く方と鳴らす方二つで一つ」というイメージです。イメージと言っては語弊があるかもしれません。それが正当な使用法であるからです。しかしコントローラーと言えど、その正体は管楽器の形をした、MIDIコントローラーです。「鍵盤の形をしたMIDIコントローラー」というのが普通のシンセサイザーなわけですが、それと「管楽器の形をしたMIDIコントローラー」はピッチャーとキャッチャーの様なポジションの違いでしかありません。もちろん出来る事の細かい違いはあります。しかしだからと言ってMIDIである以上、根本的に違いなどあられやしません。むしろウインド用と言う事ゆえ普通のMIDI音源よりも細かいコントロールが可能になっており、良いくらいです。


 しかしそのような現実的/実用的な認識を妨げるもう一つの強烈なイメージ、それはこの楽器がウインドシンセサイザー界という世界に属するものである事、というイメージです。何と言いますか、管楽器の世界の延長線上なのです。アーティストで言うとTスクエア(F1のテーマ曲でおなじみ)であり、ジャンルで言えばフュージョンです。その世界はあくまで生演奏の世界、テクノではありませんし、MIDIデータの打ち込みなわけでも、シンセサイザーなわけでも無いのです。電子管楽器と言う生演奏ゆえの、パワフルな音を求めたアナログ音源の採用であり、ヒューマンなニュアンスを求めるゆえの細かいコントロール方法の充実なわけです。


 それが機材の性能的な観点から見て、テクノ的に魅力があるものとなっているのは、言わばたまたまです。そしてそれをテクノ的な観点でとらえた場合、そこに魅力を感じるのは一部のマニアックなユーザーに限られます。つまり需要が低く、商業主義的には成功しようがありません。よって価格は高くなるのです。普通は。それがですよ、それを管楽器の観点でとらえると、需要があり、商業主義的にも一定のマーケットを確保出来るわけです。それゆえ、5万円のポテンシャルと2万5000円の相場価格という相反する要素を持った、非常にお得な楽器となっているわけです。


 僕はこの事実に、ある意味おとぎ話や教訓的なものを感じます。チャンスは境界線上に転がっているはずです。どうでしょう。